サクソンウォリアーから学ぶ日本産馬の海外評価の上げ方

サクソンウォリアーは日本生まれのディープインパクト産駒だが…”日本産”の言葉の裏側の事情とは…

SOLUTION PROBLEMDesigned byhttps://www.freepik.club

日本生まれのディープインパクト産駒、サクソンウォリアー(牡3歳)が英2000ギニーに優勝しました。これは素晴らしい快挙です。ディープインパクトの遺伝子が遂に、競馬発祥の地イギリスのクラシックレースを制覇するほど優秀なものであることが証明されました。

日本の競馬ファンにとってこれは大変喜ばしいニュースです。が、しかし確かに表記はSaxon Warrior(JPN)となっており、出生地は日本になりますが、この馬を単純に日本産だと喜ぶのは?マークが5つほどついてしまいます。

この記事は、サクソンウォリアーを日本産馬が英国クラシック勝利!!として喜んでいる日本の競馬ファンには申し訳ないのですが、日本産と呼ぶにはやや苦しい現実があることについて書かれています。

そして求められているのは決して日本産の馬ではなく、ディープインパクトの血、もっと言えばサンデーサイレンスの血であって、それをまるで日本産のレベルがあがった!かのように報道するのは、ちょっと違うのでは? というのが私の意見です。ただし、ディープインパクトを通して日本競馬に注目が集まっているのは事実ですから、競馬をもう少しビジネス的に捉えることで、今後日本産の馬が世界中で活躍することは可能だとも思っています。

それはどうやったらよいのか?それも最終章で書きますので、日本競馬が大好きなファンは最後までお付き合いください。

でもまずはサクソンウォリアーの英2000ギニーのレースを見ましょうか。素晴らしい勝利ですね!

 

Racing UK Published on May 5 2018

コンテンツ

競馬トップページ

サクソンウォリアーは日本生まれだが日本産と呼ぶのはやや苦しい

Designed byhttps://www.freepik.club

Saxon Warrior(JPN)という表記を見ると、やっぱりなんだか誇らしい気分になりますよね? アメリカに住んでいる私だってそうです。近年はオーストラリアに移籍した日本馬が現地でG1に優勝するなど、トレードも盛んになってきていますし、どんどんJRA所属馬も海外に移籍したらいいと思っています。日本国内だけで生産馬を販売するよりも、世界を相手に販売した方がマーケットが広くなるので、ビジネスとしては望ましいですよね?

さて、なぜサクソンウォリアーを日本産と呼ぶのが適切ではないのか? という話をします。それはサクソンウォリアーの生い立ちについて見てみるとよくわかります。なぜなら母Maybeは決してノーザンF社や社台F社が購入し日本に輸入した繁殖牝馬というわけではありません。

同馬のステータスは、オーナーがデリック・スミス氏、ジョン・マグナー氏、およびマイケル・テーバー氏(クールモアという事です)で、生産者はOrpendale, Chelston & Wynattという表記です。海外では繁殖牝馬の所有者が生産者なになるので、例えサクソンウォリアーが預託先のノーザンFなり社台Fの施設で生まれても、生産者ノーザンF、社台Fとはなりません。

そこが日本とちょっと違うところなので注意が必要です。日本の場合馬主さんが繁殖牝馬を預託で預けた牧場で仔馬が生まれた場合、その牧場の名前が生産者としてクレジットされますが、そもそもその繁殖牝馬って誰の所有? という事を考えれば、所有者が生産者というのは筋が通っています。

では母Maybeはどうやってディープインパクトと配合したのでしょうか? それは、実に費用のかかる話ですが、わざわざクールモアグループが選りすぐりの繁殖牝馬を日本に送り、ディープインパクトを種付けしたということです。そして生まれた仔馬を日本で走らせずに、本国に持って帰ってきた…金のかかる話ですが、そこまでしてでもディープインパクトの血が欲しかったわけですね。

わざわざアイルランドから日本までディープインパクトの血を求めて繁殖牝馬を送り込んでくる、これは本当にすごいことだと思います。費用種付けで3000万円(社台スタリオンが満額で請求しているかは不明。取引きがないとは言い切れません)それに加えて、郵送費、日本の受け入れ先の牧場への預託料を計算すれば、一頭あたり5000万円からのプロジェクトです。

そこまでしてでもディープインパクトの血がほしい! と思わせたということは、ディープインパクトにビジネスとしての旨味が大きいということですから、その点に関しては歴史的快挙といって差し支えないでしょう。

 

海外のホースマンが欲しがっているのはディープインパクトの血であって日本産の馬ではない

残念ながら、2018年現在、海外のホースマンが欲しがっているのは”日本産馬”ではありません。ディープインパクトの血、掘り下げて言えばサンデーサイレンスの血を求めているのです。

もし日本産馬が欲しければ、セレクトセールで購入した方が、遥かに手間も費用も節約できます。しかしそうはしないところにからくりがあります。セレクトセールでは毎年1億円を超える高額な取引きがされていますが、基本的に社台F、ノーザンFで生産された馬で”これは走りそう”という評価を受けた馬はクラブの募集に回ってしまいます。

ノーザンレーシングや社台レースホース、キャロットクラブですね。高い評価を受けた馬は上から順番にクラブの募集に回り、セレクトセールには回らないんです。これではクールモアもダーレーもセレクトセールで買ってやろうという気にはならなくて当然です。かといって、それが悪いわけでもなく、ビジネスとして会員さんに一番馬を提供するというのはおかしなビジネスコンセプトではありません。

優先順位の問題です。クラブ募集馬がダービーに一頭も参戦できなければ、クラブの価値は下がります。でも海外のホースマンもいよいよサンデーサイレンス系の種牡馬の子供たちの能力を無視できなくなってきたという事です。

「ディープインパクトをシャトルでオーストラリアに出してほしい」という要請はオーストラリアのアローフィールドスタッド代表のジョン・マサラ氏から何度も打診はあったはずですが、あまりに資産価値が高いためか、同馬をシャトルすることはついぞ今までありません。

その変わりというわけではないですが、2018年度から、アローフィールドではリアルインパクト(ディープインパクト)、ミッキーアイル(ディープインパクト)そしてモーリス(スクリーンヒーロー)がルースターに加わりました。

種付け料はそれぞれリアルインパクトが19250豪ドル、ミッキーアイルが13750豪ドル、モーリスが33000豪ドルとなっています。

詳しくはArrow Field Stallionsをご覧ください。このことからもわかるように、海外のホースマンは確かにサンデーサイレンスをはじめとした、日本で活躍した馬の血統には興味があり、また購買意欲もあるわけです。

しかし、だからといって決して日本で生産された馬を買おうとはしないという事です。種牡馬として血統を導入することで、繁殖牝馬は自国の繁殖牝馬を用意して、母国の生産馬として市場に売りに出す、あるいは自前で所有して競馬をする方が旨味があると判断されています。

これは、日本の競走馬の生産自体が評価されているわけではないということの証明でもあります。日本人オーナーは毎年アメリカで、ヨーロッパで、そしてオーストラリアで1歳馬を購入し、日本に輸入して競走させます。なぜでしょう? 購入するに値するだけの価値を感じるからです。アメリカケンタッキーの11月のファシグティプトン社が主催する繁殖牝馬セールは毎年世界中の生産者が億単位の馬をぞろぞろ購入します。

ジャパンマネーもバシバシ飛び交います。ここでサンデーサイレンス系の繁殖牝馬と配合できる質の高い肌馬を購入しなければ日本の生産の質が落ちてしまうからです。

必ずアメリカから繁殖牝馬は買います。スピードもありますし、それだけの価値を提供するマーケットがあるからです。残念ながら、今の日本の生産会には、世界中のホースマンにミリオンのお金を払わせるだけのマーケットが存在しません。

おそらく世界中のホースマンを引き付けるだけのセールを日本で開催することは将来的にもほぼ可能性はゼロです。

生産頭数が少なすぎることと、馬に価値を与えるために必要な重賞レース、もとい、競馬のレースの絶対数が少なすぎるが故に、自国産の馬をブランディングすることがアメリカやオーストラリアのような大国に比べて難しいと言わざるを得ません。

重賞が年間200レースあれば、最高で1頭が1レースに優勝するとして、ブラックタイプの馬が200頭生まれます。200頭が全部牡なら、その200頭のお母さん馬がブラックタイププロデューサーとしての価値がつきます。

200頭が全部牝馬であれば、お母さん馬の価値づけ+自身もブラックタイプの繁殖牝馬として最初から価値の高い肌馬として生産にまわります。

ですから、JRAの重賞レースの少なさも、価値の高い日本産馬の頭数の少なさの原因の一つといえるでしょう。

もっと現役馬のトレードが活発になると、日本産馬は世界に広がる

日本産馬の価値を上げるには、現役中のトレードがもっとも手っ取り早く、また最も有効な手立てであると私は確信しています。日本の生産馬を海外のホースマンは買いません。理由は2章の通りです。わざわざ日本で買う価値が乏しいからです。

しかし、現役の競走馬となると状況は全く異なります。2017年にはブレブスマッシュ(トーセンファントム)、トーセンスターダムがJRA所属馬として現役のまま豪州へ移籍し、(馬主の名義も変更)現地の厩舎に転厩し豪G1に勝利しました。

おそらくこの2頭も、ミッキーアイル、リアルインパクトに続き豪州で種牡馬入りすることになると思われ、これこそ本当の意味で日本の生産馬が海外で活躍し、現地で評価された例と言えるでしょう。

サクソンウォリアーの活躍は間接的には日本馬としての評価につながるでしょう。ただし、サクソンウォリアーがアイルランドでクールモアの種牡馬としてスタッドインし、仔馬の評価も上々で、初年度からG1勝ち馬をだすようなことになれば、もうわざわざ日本までサンデーサイレンスの血を求めて繁殖牝馬を送ってくることもなくなるでしょう。

欲しいのはサンデーサイレンスの血であって、日本産というブランドではないという事は、そういうことを意味します。日本生産会に求められるのは、サンデーサイレンスの血を足掛かりに、「日本産の馬は買う価値がある」という認識を海外のホースマンに根付かせることです。

それはなにも一歳セールで馬を買ってもらうだけではなく、JRA所属馬のトレードの活発化でもよいわけです。日本ダービー馬が100億円でゴドルフィンにトレード、そのままアメリカの厩舎に転厩して3歳でブリーダーズカップクラシック優勝、即引退ケンタッキーで種牡馬入り。

こんなストーリーは不可能ではありません。どうせ今の日本ではサンデーサイレンス系の種牡馬は飽和状態で、1個G1を勝ったくらいでは社台スタリオンステーションのルースターには入れません。

正直社台SSに共用されなければ良質な繁殖牝馬には恵まれないのが現在の日本の生産会ですから(ダーレージャパンは除く)チリに埋もれてしまうくらいなら現役でトレードされ、現地で種牡馬となった方が回りまわって日本馬の評価アップにつながると私は考えています。

せっかく手に入れたサンデーサイレンスという至宝を、宝の持ち腐れにするのはもったいないですし、やはりJPNの種牡馬が世界的名声を得るのは日本人としては誇らしくもあります。いつまでもサクソンウォリアーのパターンんではダメです。トーセンスターダムやブレイブスマッシュの方向に活路を見出すべきです。

本記事終わり。最後まで読んでいただきありがとうございました。(記事:末松 正統)

競馬トップページ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です